ものづくりの製造現場では、日々多くのコストが発生します。コストを適切に管理し、収益を上げ、投資により更なる成長戦略を描くことは、企業の継続的発展に欠かせません。製造業における経理は「お金」という数字を通して、工場全体を把握できる唯一の存在です。
工場経理経験10年超の筆者が、製造業における工場経理の仕事内容、スキル、キャリア、やりがいについて紹介します。
目次
経理の仕事内容は大きく3種類~財務、経理、資金~
経理の仕事は大きく3種類に分類されます。企業規模が大きくなると、室や課が分かれますが、担当者で分けているケースもあります。
【経理の仕事の種類①】財務業務
固定資産、棚卸資産(仕掛品や在庫)といった資産管理や出納、税務(固定資産税など)を担当します。最近では、ルール通りに業務が行われているか?の管理である内部統制業務も行います。
会計の原則に則って、貸借対照表や損益計算書などの決算書類を作成するのが主な仕事です。
【経理の仕事の種類②】経理業務
工場で発生するコストを集約し、原価計算を行います。中期計画(3~5年が多い)や半期予算を立案し、月々実績をフォロー、分析します。個別製品の原価を詳しく調べる特殊原価調査や設備投資の採算性評価を行うこともあります。
原価管理、予算統制が主な仕事です。
【経理の仕事の種類③】資金業務
キャッシュ(現金)の流れを管理します。銀行から借り入れたり、小切手や手形による決済を管理したりします。
資金業務は本社で一括して行うことが多いです。
どれも重要な業務ですが、製造業の特徴は、その②で経理業務が担っている「製造原価の適切な管理、予算による製造原価の統制」です。
次は、製造業の経理が求められるスキル、キャリアについて説明します。
一般経理と工場経理の違い
まず工場経理とは、製造業の現場で重要な役割を果たす経理の専門職です。
原価計算や在庫管理、予算管理なども行うため、工場の運営や生産活動に密接に関わり、経理面から工場の効率化と収益性の向上を支援する役割があります。現場とも関わることも多いため、コミュニケーションが好きな方にとって魅力的な職種であると言えます。
業務領域と専門性の違い
一般経理(本社経理)
一般企業の経理部門は、会計、財務管理、予算策定、税務など幅広い業務を担当します。経営戦略の策定や企業全体の財務状況の把握が中心です。
工場経理
一般経理に対し製造業の工場経理は、製造プロセスに特化した業務も含まれます。原価計算、在庫管理、生産コストの管理など、製造過程における財務面での課題に焦点を当てます。
業界特有の知識と経験の必要性
一般経理
一般企業の経理担当者は、企業全体の財務管理を通じて会社の財政状態を良好に保ち、経営陣に経済的な意思決定の支援をします。業界に特化した知識よりも、幅広い財務管理のスキルが求められます。
工場経理
製造業の工場経理は、製造プロセスや材料コスト、労働力費用などに詳しく、これらを管理しながら業績を最適化することが求められます。また、製造業特有の法令や規制にも精通している必要があります。
業務の複雑さと責任
一般経理
一般企業の経理業務は、時には複雑な財務データの分析や法令順守が求められますが、製造業の生産プロセスや在庫管理の複雑さは発生しません。
工場経理
製造業の工場経理は、生産ラインの効率化や製品の原価低減など、直接的に生産活動の成果に責任を持ちます。そのため、生産コストの管理が企業の競争力に大きく影響します。
一般経理や未経験から工場経理へキャリアチェンジするにはどうすればいいの?
未経験から工場経理への転職ステップ
経理職は専門的な知識や経験値が問われるため、未経験者が挑戦するには難しい転職であると言えます。しかし、基本的な経理知識を学び関連する資格を取得することで、未経験でも経理職に挑戦することは十分可能となります。
未経験から工場経理に転職するための第一歩は、製造業界の基本知識を身につけることです。製造プロセスや生産管理の基礎を理解することで、工場経理の業務内容に対する全体像が見えてきます。また、製造業に特化した原価計算や在庫管理の基礎知識を学ぶことも重要です。さらに、製造業で使用されるシステム(基幹システム、業務システム、統合基幹業務システムなど)の仕組みを理解することで、転職活動を有利に進められます。適切な準備と努力を重ね、面接などでアピールできれば未経験から経理職への転職の可能性を広げられます。
一般経理から工場経理へキャリアチェンジするためのポイント
一般経理から工場経理へのキャリアチェンジは、異なる業務内容や専門知識が求められるため難しいと感じるかもしれません。工場経理は製造プロセスや原価管理など、製造業特有のスキルが必要とされるため、一般経理とは異なる点が多くあります。しかし、適切な準備を行うことで、キャリアチェンジは十分可能です。そのうえで、次のポイントに気を付けましょう。
製造業の知識が転職に有利な理由
製造業の知識があることは、工場経理への転職において大きな強みとなります。製造プロセスや生産ラインの運営方法を理解していると、経理業務においても生産コストの管理や効率化の提案が的確に行えます。また、原価計算や在庫管理など製造業特有の経理業務にもスムーズに対応できるため即戦力として評価されやすいです。さらに、製造現場の課題を理解し、解決策を提案できることで、現場との連携が強化され、業務の円滑な進行に貢献できます。このように、製造業の知識があれば、未経験や一般管理からの転職でも有利に働く為、事前に調査しておくとよいでしょう。
次に、工場経理に求められるスキルやキャリアパスについて説明します。
工場経理に求められるスキル・キャリアを紹介
工場経理に必要とされる資格
簿記2級は必須です。半年~1年くらい勉強すれば取れますので、経理配属後、早めの取得が望まれます。知識ゼロからであれば、簿記3級の薄い参考書を1冊程度読んでおくと良いです。
簿記2級の合格率は、概ね30%程度ですが、回によっては20%未満から40%以上とばらつきがあります。論点によっては合格が難しい場合もあります。
難関資格ですが、簿記1級は取得すると幅広い知識を身に着けることができます。標準原価計算、設備投資の意思決定、予算実績差異分析といった論点は、実務でも大いに役立ちます。
転職の際も、よいアピール材料となりますが、合格率10%、平均1000時間程度の学習が必要なので、長期戦の覚悟が必要です。
公式サイト:簿記|商工会議所の検定試験
工場経理に必要とされる適性・スキル
製造現場のメインは工場部門ですが、その他にも品質管理部門、工程管理部門、設備管理部門、技術部門などがあります。
経理は原価管理、収益管理の観点から様々な部門へコストに関する依頼を行う立場にあります。相手の立場、仕事に配慮しつつも、全体最適、収益最大化のため人や組織に動いてもらう必要があります。
また所長や工場長といった上位管理者へコストや収益を報告したり、工場の担当者からコストについて質問を受けたりすることもあります。
協調性、コミュニケーション能力、ロジカルに物事を説明する能力が必要です。文章一枚やメール一本で多くの人を動かしますので、過不足なく相手に伝える文章力も大切です。
工場経理でのキャリアアップの道
経理は専門性の高い職種ですので、担当者、管理者へと一貫して経理の中で昇進することが多いです。最終的には、財務担当
部長やCFO(Chief Financial Officer)といった経営管理者への道もあります。
一方、経理の知識は、「お金を通して全体を把握、管理すること。収益を最大化すること。」ですので、他の管理部門や営業部門などに行っても役立ちます。
新入社員で入社後、経理に配属し、3年程度で営業へ異動するキャリアパスもあります。経理で得た経験や知識はどこへ行っても応用することが出来ます。
IT化やAIの導入!これから工場経理業務に求められるスキル
今後、経理業務にもIT化やAI(人工知能)の導入が進んでくると想定されます。今まではデータベースから必要なデータを抽出し、エクセルで加工、分析、パワーポイントにまとめて報告といったステップを踏んでいました。
今後は、RPA(Robotic Process Automation)で自動的にデータを抽出、加工、分析(例えばTableau(https://buy.tableau.com/)などのITツールの活用)で瞬時に関係者へ情報を共有化する時代になると考えられます。
更に進むと、AIが膨大な過去データを学習し、精度の高い中期計画や半期予算計画を作成するようになるかもしれません。
ITの基本的な知識と、RPAなどツールを使いこなせるスキルなどが今後必要になるでしょう。
工場経理業務のやりがいと魅力
工場経理の仕事は、数字に対する鋭い洞察力と分析力が求められるだけでなく、製造業の根幹を支える重要な役割を担っています。
工場経理は、仕入れのコスト管理から生産効率の改善、そして最終的な販売に至るまで、全てのプロセスに関与します。仕入れのコストを下げつつ品質を維持し、効率よく生産を行うことで、原価を削減し利益を最大化する役割を果たします。これにより、経理の視点から見た企業の健康状態を常に把握し、適切なアドバイスを提供することが求められるのです。
また、売上や利益に直結する業務に携わることができる点が大きな魅力です。数字の分析から原価削減策を提案し、それが実際に成果として現れる瞬間は、やりがいを実感することができます。利益が目に見えて向上することで、自分の仕事が企業にとってどれほど重要であるかを感じられるのです。
製造業の工場経理にキャリアアップをしたい!まずは転職のプロに相談してみよう!
製造業では、安全を最優先に、品質、安定的な操業といった優先順位があります。しかし必要な収益をあげないと企業や工場は存続できません。
収益管理の観点から全体を統制し、意思決定にたずさわることができる経理はとてもやりがいのある仕事です。
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